2025年マーケティングトレンド振り返りと2026年

1. 生成AIの「実装」から「日常」へ
2025年のマーケティングは、「AIの民主化(実用化)」と「人間らしさ(Authenticity)への回帰」という、一見相反する2つの潮流が深く結びついた1年でした。
2025年12月現在の視点から、今年の主要なトレンドとトピックスを振り返ります。
2024年まではAIをどう使うかの「試行錯誤」の年でしたが、2025年は完全に業務の「標準装備」となりました。
- クリエイティブの爆発的効率化: 動画生成AI(Sora, Veo, Runway等)が広告制作の現場に浸透。これまでの1/10のコストと時間で高品質なショート動画広告が量産されるようになりました。
- 感性×AIの融合: 単なる効率化だけでなく、消費者の「エモい」「心地よい」といった言語化しにくい感性を数値化し、AIが最適なキャッチコピーやデザインを選定する手法が注目されました。
- AI Workflow Architectの台頭: AIと人間をどう組み合わせるかを設計する専門職が、企業のマーケティング部門で最も必要とされるポジションとなりました。
2. 「脱・アルゴリズム」とコミュニティの深化
SNSの公開フィード(タウンスクエア型)への疲れが見え、より閉鎖的で濃い繋がり(ダークソーシャル)へシフトが進みました。
- ファンダム・マーケティング: 不特定多数への拡散よりも、熱狂的なファンコミュニティ(DiscordやInstagramの限定チャンネル)でのエンゲージメントが重視されました。
- Lo-Fi(ローファイ)への回帰: AIが完璧な画像を作る反面、あえて無加工に近い「人間が撮った感」のある手ブレ動画や、不完全なコンテンツ(EGC: Employee Generated Content)が信頼を獲得しました。
- スロー・ソーシャルの台頭: 15秒の動画だけでなく、じっくり視聴する長尺動画やポッドキャストなど、深いブランド体験を求める層が増加しました。
3. 消費トレンドとヒットの兆し
2025年を象徴する具体的なヒットやキーワードです。
- 抹茶ブームの再燃: 日本発の抹茶が米国や中東で爆発的な人気を博し、グローバルブランドがこぞって抹茶関連商品を展開しました。
- α(アルファ)世代の台頭: 2010年以降に生まれた世代が、親の購買決定に大きな影響を与える存在として明確にターゲット化されました。
- リテールメディアの成熟: Amazonやウォレットサイトなどが、購買データに基づいた超高精度な広告配信網を確立し、Google検索広告を凌ぐROI(投資対効果)を叩き出しました。
4. 信頼とブランドセーフティの再定義
AIによるフェイクコンテンツが増加したことで、ブランドの「誠実さ」がこれまで以上に厳しく問われた年でもありました。
- プライバシー・ファースト: Cookie規制が完全に定着し、企業が直接顧客とつながる「ゼロパーティデータ(顧客が自ら提供する情報)」の収集と活用が競争力の源泉となりました。
- 不祥事への厳しい視線: 2025年は大手金融機関の不祥事や万博関連のトラブルなど、企業のガバナンスがSNSで瞬時に拡散され、イメージが悪化する事例も目立ちました。
まとめ:2025年が教えてくれたこと
2025年は、「技術(AI)で効率を極めれば極めるほど、最後に差別化を生むのは人間の熱量やブランドの倫理性である」という本質に立ち返った1年でした。
2025年話題の広告キャンペーン事例
2025年も残すところあとわずかとなりましたが、今年も人々の記憶に残る独創的な広告キャンペーンが数多く誕生しました。
特に話題となった具体的な事例を、その手法や背景とともにいくつか厳選してご紹介します。
1. 体験・没入型 OOH(屋外広告)
SNSでの拡散を前提とした、物理的な仕掛けやデザインのインパクトが強い事例が目立ちました。
- 世界陸上2025 東京大会「運動会は、続いている。」
- 内容: 新宿駅などで展開された巨大広告。アンバサダーの織田裕二さんが「校庭のマイクの前に立つ教師」の姿で登場。
- 話題の理由: 掲示板に児童の手書きコメントや花紙の装飾を施すなど、「手作り感」を徹底。世界大会という遠い存在を、誰もが経験した「運動会」という自分ごとの文脈に落とし込んだ演出が共感を呼びました。
- Uber Eats「猛暑で溶けた看板」
- 内容: 記録的な猛暑の中、屋外看板のロゴやビジュアルがドロドロに溶け出しているようなデザインを展開。
- 話題の理由: 「外に出るのが危険な暑さ=デリバリーを頼もう」というメッセージを、言葉ではなく視覚的なインパクトで表現。見ている人の「今まさに暑い」という感覚とリンクさせ、SNSで多くの写真がシェアされました。
- Netflix「“暗”闇バイト募集中」
- 内容: 昨今の社会問題を逆手に取ったかのような、不穏で違和感のあるコピー。
- 話題の理由: ギミックやデザインの力で「え、これ何?」と思わせる仕掛け。作品の世界観へ引き込む没入感が評価されました。
2. SNS・動画プラットフォームの成功例
YouTubeやTikTokなど、プラットフォームの特性を最大限に活かしたキャンペーンです。
- サントリー「飲みに誘うのムズすぎ問題」
- 内容: YouTube Works Awards Japan 2025でグランプリを受賞。若者が友人を飲みに誘う際のためらいや葛藤をリアルに描いた動画。
- 話題の理由: 「わかる!」という強烈な共感を呼び、単なる商品紹介を超えたブランドへの愛着(ブランドリフト)を生みました。
- KinKi Kids「#Spotifyでキンキのキセキ」
- 内容: サブスク解禁に合わせ、渋谷などの街頭で音楽史における彼らの軌跡をアート展示のように展開。
- 話題の理由: 長年のファンだけでなく、アート性の高さから新規リスナーの目も引き、デジタル(再生)とアナログ(街頭)を見事に融合させました。
3. 異色コラボレーション
意外な組み合わせが驚きを生んだケースです。
- マクドナルド × きぬた歯科
- 内容: 東京都内で看板広告の代名詞となっている「きぬた歯科」と、マクドナルドがまさかのコラボ。
- 話題の理由: 本来「甘いもの(マック)」と「歯医者」は対極にある存在ですが、SNSで有名なきぬた歯科の看板をマクドナルドがパロディ化(あるいは共演)したことで、「公式が病気(褒め言葉)」とネット上が騒然となりました。
2025年のトレンドまとめ
今年のヒット広告には、共通して以下の要素が見られました。
- 「自分ごと」化: 遠い世界の出来事を、日常の風景や感情に接続させる。
- UGC(ユーザー生成コンテンツ)の誘発: 思わず写真を撮って投稿したくなる「違和感」や「美しさ」。
- 社会背景の反映: 猛暑や社会問題など、今この瞬間の空気を切り取るスピード感。
2026年マーケティング戦略:AIと人間らしさの融合
2026年のマーケティング戦略を立案する上で、鍵となるのは「AIの日常化」と、その反動として生じる「人間らしさ・リアルへの回帰」のバランスです。
電通の予測によれば、2026年の世界の広告費は史上初めて1兆ドルを突破する見込みであり、市場は拡大傾向にあります。この変化の波を捉えるために、準備すべき4つの重要戦略をまとめました。
1. AIエージェント・ファーストのSEO/広告戦略
2026年は、AIが単なる検索ツールから、ユーザーの代わりに比較・購買を行う「AIエージェント」へと進化します。
- AEO(回答エンジン最適化)への移行: 従来の検索結果(SERPs)の順位だけでなく、ChatGPTやGoogle AI OverviewsなどのAI回答に引用されるための構造化データや、専門性の高いコンテンツ(E-E-A-T)の強化が必要です。
- アルゴリズムへの対応: 広告配信もAIによる完全自動化が進みます。人間が細かく設定するよりも、AIが「誰に・いつ・どのクリエイティブを出すか」を判断する精度が向上するため、素材(画像・動画・テキスト)のバリエーションを多角的に用意する「アセット重視」の運用へ切り替えましょう。
2. 「アテンション・デトックス」への対応
Z世代を中心に、情報過多なデジタル環境から距離を置く「アテンション・デトックス(注意の解毒)」が加速します。
- 質の高い長尺コンテンツへの回帰: 短尺動画のブームが一巡し、深い学びや物語性のある「最後まで見られる質の高い内容」が再評価されます。
- リアル体験(コミュニティ)の強化: オンラインの繋がりだけでなく、ポップアップストアや体験型イベントなど、五感を刺激するオフラインの接点がブランドロイヤリティを高める最大の武器になります。
3. 「うま確(確実な価値)」と透明性の担保
物価上昇が一段落しつつも、消費者の「失敗したくない」という心理はより強固になります。
- 検証可能なエビデンス: 「エコ」「SDGs」といった曖昧な言葉は通用しなくなります。サステナビリティや品質に対する具体的なデータや透明性のあるプロセス(製造工程の開示など)が、購買の決定打となります。
- UGC(ユーザー生成コンテンツ)の活用: 企業の発信よりも「自分に近い他者の本音」が信頼されます。インフルエンサー施策も、単なる拡散目的から、ブランドを深く理解するファンとの「共創(Co-creation)」へシフトすべきです。
4. 自社チャネル(Owned Media)の再定義
広告単価の上昇(CPCの高騰)とクッキーレスの影響により、プラットフォーム依存はリスクとなります。
- 1st Party Dataの活用: メール、SMS、自社アプリなどの「直接繋がれるチャネル」を再構築してください。
- RCS(リッチ・コミュニケーション・サービス)の導入: 次世代のSMSであるRCSを活用し、アプリを介さずともリッチな購買体験や予約管理ができる環境を整えることが、コンバージョン率向上の鍵です。
戦略チェックリスト
- 自社サイトのデータはAIが読み取りやすい構造(構造化マークアップ)になっているか?
- 広告費に頼らず、顧客と直接繋がれるリスト(メール・LINE等)を蓄積しているか?
- 「効率」だけでなく、顧客が時間を忘れて没入できる「体験」を提供できているか?






